映画まく子の見どころは?
何ごとも“まくこと”は始まりだ。種を蒔(ま)かないと命は生まれない、水を撒(ま)かないと草花は育たない。笑顔を振りまき、お茶や食べ物を人に振る舞う。赤ちゃんが物を放り投げ、子供が何でもまき散らすのは、生命の根源的本能からなのかもしれない。私たちは何かをまくために生まれてきたのだろうか。映画を見ながら、ふとそんなことを考えた。

映画は、思春期をむかえた少年サトシと、旅館の住み込み仕事の母子として街に転入してきたコズエとの物語。コズエは人として生きていることを心の底から喜び、落ち葉や砂を撒くのが楽しいという。彼女はなんと遠い宇宙から来て地球の女の子にシンクロしたと言う、不思議な娘だった。大人になるのが怖いというサトシにも、彼女は「楽しいよ」と答える。

原作は児童向けの出版社から出された本だが、童話ではなく大人の読み物以上に「人間がこの世界で生きるとこととは何なのか」にアプローチした直木賞作家・西加奈子の傑作である。何十年も生きた大人にこそ見てほしい、不思議と人生の機微が深く感じられる映画である。
清藤誠(美術・映画ライター/TVプロデューサー・ディレクター)
まく子 2019年3月15日 テアトル新宿ほか全国ロードショー
監督・脚本:鶴岡慧子 原作:「まく子」西加奈子(福音館書店 刊)
出演:山﨑光、新音、須藤理彩/草彅剛